はじめに
私はこの法人代表を努めている平田善之と申します。
縁あって3年近く、Stellar(ステラ)という暗号通貨システムを用いた独自暗号通貨開発に携わってきました。
ビットコインやイーサリアム、ネムコインなどの有名どころは技術情報や仕組みの紹介など日本語でも多くの情報が得られると思いますが、ステラはあまり見かけないように思います。
ただ、これまでに培ってきた知見から、このステラを使うと面白いことがいろいろできると思っておりまして、せっかくですからそのあたりをみなさんに紹介できればと思います。
暗号通貨
暗号通貨と総称されるブロックチェーンや分散台帳技術は投機対象の価値として語られることが多く、それ以外の用途や根本的なポテンシャルについて語られることがまだ少ないように感じます。
実際には暗号通貨はこれらの基盤技術(支払システム、認証システム)で用いられる改ざん不可能なデータに新しい通貨としての役割を持たせた応用のひとつであり、改ざん不可能なデータを取り扱えることがソリューションとなり得るすべて業態にとってこの応用が期待される技術です。
ここでは、そういった方々がどうすれば自社の業務やサービスにこれを導入して活用していくことができるのか、読み手には中小企業のオーナーや個人事業主の方を意識して、そのあたりがイメージできるようになることをゴールとして、あまり専門的な書き方にならないようにしながら、これらの持つポテンシャルを具体例などを混ぜながら書いていきたいと思います(ときどき脱線しそうですが)。
台帳情報をどこで管理するか
台帳が分かりづらければ帳簿や出納帳と置き換えてもよいかと思います。
誰がいつどこにいくら払ったとか受け取ったというような情報がある程度まとまったものです。
この台帳が、イコール改ざん不可能なデータ、と捉えていただければと思います。
台帳管理は大きく分けて、ビットコインやイーサリウム型のP2Pネットワークにより全員で管理していくというタイプのものと、リップルやステラ型の分散サーバにより複数の管理者集合によって管理していくというタイプの2種類に分かれます。
まずは全員で管理していくタイプのP2Pネットワーク形式のイメージ図です。
この台帳は上記イメージ図をみると、自分の帳簿は自分で管理しているように見えますが、実際にはみんなの帳簿が混ざったものをみんなで持ち合って管理しています。
これもイメージ図にしてみます。
なので自分のデータだけ都合よく改ざんということができなくなっています(改ざんすればネットワークから外れます)。
ちなみにこの台帳に向かって矢印で集合している右側の枠のひとつひとつが、ブロックチェーンでいうところのブロックです。
これに対して、複数の管理者集合によって管理していくタイプの分散サーバ形式のイメージ図です。
こちらは台帳の所有者であるユーザは台帳管理に参加していません。
前者が台帳を全員で管理していくタイプだったのに対して、これを複数の管理者集合によってサーバ上で分散管理していくかたちとなります。
このふたつには、その他にも細かい違いや、それらの管理方式によって派生するさまざまな仕掛けがあるのですが、脱線して本題に戻ってこれなくなりそうなのでここでは取り上げません。
ここで押さえておいていただきたいことは、それぞれで帳簿を管理するレイヤーが違うこと、そして後者では管理者集合がその役割を担っている、ということです。
非中央集権型
ではその管理者集合とはなんでしょうか?
まずその前に、ブロックチェーンの定義に非中央集権であること、というのを見かけます。
非中央集権とは、中央で承認や却下などの意思決定をする管理者業務をおこなう存在がいない、ということです。
ブロックチェーンは改ざん不可能な支払システムを実現するためにP2Pネットワークを採用しているため、これ自体間違いではないのですが、非中央集権はこれを実現するための手段であって、定義としては日本ブロックチェーン協会の「ブロックチェーンの定義」が相応しいと考えます。
難しいことが書かれていますが、意訳すると、改ざんをおこなおうとする管理者を含む中央集権であっても、それがP2Pのように中央集権(改ざん)を許さない仕組みになっていればブロックチェーン足り得る、ということです。
後者はそれを複数の管理者集合というかたちで実現している、になります。
これを実現している方法を具体的に説明すると3f+1やSCPのようなやはり難しい話になってしまうので、これは別の機会でご紹介させていだくとして、ここではあえて平たく申して「きちんとユーザにアカウンタビリティを持つ非ステークホルダで構成された4人以上の管理者たち」になります。
これがユーザに透明性をもって示せれば示せるほど非中央集権的で、そうでなければ中央集権的な対外評価となるでしょう。
このあたりは中央集権をどう非中央集権化しているかというプロトコルに依存するため、P2P型のようにスケールで評価しづらいところはあると思います(個人的には半中央集権のような呼び方がしっくります)。
ケーススタディ
いずれにしても、冒頭で述べたように、どうすれば自社の業務やサービスにこれを導入して活用していくことができるのか、という観点から考えると、すでにランニングしているビットコインやイーサリウム、またはそのICOを発行して既存のプラットフォーム上でスタートアップをおこなうには、コストも大きくリスクも高いでしょう。
非中央集権型は言い方を変えれば、一度広まったら間違いや漏洩があっても、それを広めた当事者であっても止められないということです。事業を展開する側としてはビジネスモデルやライフサイクルをしっかり事前に計画しておかないと不安材料を抱えていくことになるでしょう。
一方、複数の管理者集合による分散サーバ形式で導入した場合、上述の課題はありますが、途端にさまざまな用途に応用できそうなことに気付くはずです。
以下に、ケーススタディごとにわけて書いてみます。
■既存プラットフォーム
本家Stellar(分散サーバ型)
↓
貴社 ⇒ 決済手段、ICO
+) 透明性
-) 汎用性、独自性
もっともP2P型に近く、王道となる利用方法でしょう。
本家のネットワークノードを利用するためすでにスケールもあり、そこに1ノードとして参加するため非中央集権的ですが、用途もチャレンジも限られると思います。
あなたの帳簿操作はネットワークノードで正しく管理され、こちらで複数の管理者集合を用意する必要もありません。
利用経路は貴社サービスに限定されません(=限定できません)。窓口を貴社サイトとする必要もありません。もしくは貴社サイトだけを窓口とすることはできません。本家のネットワークノードはすでにパブリックに全世界に開かれているためです。
利用方法としては、たとえばPaypalやクレカ支払のような既存のオンライン決済手段の代替として、Stellarのトークンを利用するか、アセット型のICOを発行して企業におけるクラウドファンディングのように利用するか(StellarでもICO発行ができるようですが、具体的な導入方法は見つけられませんでした)、でしょうか。
■独自プラットフォーム(1/2)
貴社の自前Stellar
↓
ステークホルダ(従業員、発注先企業、開発プロジェクト) ⇒ インセンティヴ支払、勤怠管理、文書管理、ソース管理
+) 前後のケースの折衷
-) 前後のケースの折衷
ここからは自前で複数の管理者集合を用意して分散サーバで構築するケースになります。
ステラももちろんオープンソースなので、自前でプラットフォームを構築することが可能です。
これができれば、利用経路を貴社サービスに限定することもできます(=限定することしかできません)。窓口を貴社として、各ステークホルダにさままざまな用途を提供できるでしょう。
このケースでは各ステークホルダにも分散サーバ管理に参加してもらうため、ステークホルダ間の横軸の関係性が薄ければ薄いほど非中央集権型になっていきますが、トレードオフとして、サーバを運用してもらう必要があるため、参加者の敷居はあがるでしょう。
たとえば従業員へのインセンティヴ支払(トークンでもアセットでも可)、勤怠表や経費清算などの改ざん防止、
発注先企業であれば注文書や見積書、請求書などの文書管理(PDFやPDFに署名している電子証明も不要にできるでしょう)、
開発プロジェクトであれば、git(≠github)のリモートリポジトリ保護、リリースの申請や実施の管理など、システムに関連付けてより強固に管理していくことかできるでしょう。
■独自プラットフォーム(2/2)
貴社の自前Stellar
↓
エンドユーザ ⇒ 決済手段、ICO、規約の同意、スマートコントラクト等
+) 汎用性、独自性
-) 透明性
サービスや商品の提供者側だけで複数の管理者集合を用意し、受益者は分散サーバに参加する必要がないため、もっとも中央集権的で説明責任が増しますが、もっとも管理や応用が楽になるケースです。
スタートアップ等でこのあたりのトレードオフが問題にならなければ、格段にできることは増えるかと思います。
たとえば本来的な決済手段やICOとして、これを独自プラットフォームとして提供することや、
ユーザが同意する規約の管理(同意した後で規約に同意していないという齟齬が発生しない)は元より、
その規約自体を改ざん防止して版管理をおこなったりといったスマートコントラクトの導入もできるでしょう。
次回
特に自社で暗号通貨システムの持つ改ざん不可能なデータを、必要最低限のコストでできるだけ中央集権的に取り扱いたいと考える方にとって、ステラは大変利便性の高いプラットフォームになると考えております。
もちろん、再三にはなりますが、ブロックチェーンはP2Pでスケールされるべきとか、中央集権的に管理すること自体が矛盾しているとか、いろいろ課題や議論は尽きないと思いますが、そこに関してどちらが正しい正しくないということに関与するつもりはなく、むしろそういった概念として捉えすぎるあまり、なにか魔法やパンドラの箱のように得体が知れず気軽に手を出しづらいものになってしまっていることがもったいないと感じています。
ブロックチェーンを自前で運用することは難しい話ではないのです。
次回からは、上記ケーススタディのうち、独自プラットフォームを使った運用方法を、もう少し具体的に掘り下げて紹介できればと思っています。
P.S.
ここに記載していることはすべて個人である平田善之の個人的な見解に基づいています。
事実誤認や不明瞭な記載があれば謹んでお詫び申し上げますが、これを基に何ら責任を負うものではございません。
(ポジショントークみたいでごめんなさい)